金曜。真夜中。つかの間の解放感と安らぎ。
食事のあとバーにはしごして、泥酔するほどではないけれど気分は上々、家に帰り着いても宍戸さんは朗らかだ。
「おまえ、ほんっとチマチマした食いもん好きだよなぁ」
脱いだジャケットをダイニングの椅子に掛け、宍戸さんはワイシャツの袖を捲りながら洗面所に向かう。
「だって、もうそんなに入らなくなってきたでしょう」
「いーや、俺の胃はまだイケるね。天丼もカツ丼も余裕だしよ」
自分のジャケットをクローゼットに仕舞うついでに、宍戸さんのジャケットもハンガーにかける。手を洗おうと洗面所に向かうと、ちょうど宍戸さんが出てくるところだった。
「宍戸さんは強いなぁ。俺は最近もうだめ。油っこいものとか、胃もたれしちゃう」
「鍛え方が違うんだよ」
リビングに戻る宍戸さんが歌うように言う。
「内臓をどうやって鍛えたっていうんすか」
「あれ、ジャケットどこ置いたっけ」
椅子の背もたれから消えたジャケットを探しているようだ。
「片づけちゃいましたよ」
「あぁ、ありがと」
宍戸さんのあとだからか、蛇口から流れ出る水は温かかった。寒くなったら温水、暑くなったら冷水。宍戸さんが温水を使い始めると秋の到来を感じる。夏も終わり、肌寒い季節が近づいてきている。そろそろコートを出した方がいいかもしれない。
泡を洗い流し、うがいをした。ハンドソープが少なくなっている。買い物リストに加えておかないと。ついでにお風呂の準備もしてしまおう。浴槽を洗っていると、洗面所に宍戸さんが戻ってきた気配を感じた。
「明日クリーニングに行くから、他に出すものあったら夜のうちに出しといてくださいね。先週もなんか入れ忘れたでしょ。ネクタイだっけ」
平日に着たワイシャツやらは、週末にまとめてクリーニング店にあずけることにしている。専用のかごを洗濯機横に用意していて、各自入れるようにしていた。
「さっき入れた。もうない」
洗剤を洗い流すシャワーの水音に紛れて、宍戸さんがバスルームに入ってきた。簡単な掃除だ。手は足りている。それでもここに来たということは俺に用事があるのだろう。なにがあったのかと振り向こうとしたところを、うしろから抱きしめられた。
「なぁ、もうこんな時間だけどさ」
「うん?」
「俺が準備したら、やる?」
シャツ越しの宍戸さんの吐息が熱い。
「したいんですか?」
「どっちでも」
「あはは、どっちでもって」
「いい雰囲気にあてられたんだよ」
今夜のディナーは俺が誘ったフレンチ。そのあと行ったバーでのグランドピアノの生演奏。照明が絞られたガラス張りの空間は夜景のほの明かりと一体化し、空に溶けてしまいそうな不思議な浮遊感に高揚してテーブルの下でこっそり宍戸さんの指先に触れた。
「チマチマした食べ物、なんて馬鹿にしたくせに」
「食ってるときに緊張すんだろ」
シャワーを止めて、湯張りのボタンを押す。背中から離れていく宍戸さんをつかまえて向き合えば、酔いの醒めきっていない瞳が見上げてくる。
「先に入ります? それともあとがいい?」
「んー、あとにする」
「一緒にって選択肢もありますけど」
「やだ。風呂ん中でやることになんだろ。疲れる」
「そんなにがっついたりしないよ」
「どうだか」
ゴボゴボと大きな水音を立てて、温水が浴槽に溜まっていく。立ちこめはじめた水蒸気に包まれ、宍戸さんを抱き寄せた。宍戸さんのにおいと、少しだけアルコールのにおい。回された熱い手のひらが俺の背中を撫でた。腕の中でわずかに首を伸ばした宍戸さんが、シャツ越しに俺の鎖骨に歯を立てる。口端を引き上げた宍戸さんはわざとじゃれつくように挑発して、俺を誘った。
「がっついてるのは宍戸さんの方?」
「かもな」
「ふふ、宍戸さんから仕掛けてくるなんて久しぶりですね。そんなにデート楽しかった?」
見下ろせば、見上げてくる。微笑めば、微笑み返される。鏡のように戻ってくる反応が、こんなにもいとおしい。
「いい男になったなと思って」
「え?」
宍戸さんの指先が俺の頬に触れた。夜色の瞳が俺の顔を確かめるようにゆっくり動く。そして視線が絡んで、顔が近づいてきて、宍戸さんはまぶたを閉じた。
「宍戸さん、結構酔ってます?」
重ねた唇の間で問えば、余計なことを言うなと舌が割り込んでくる。粘膜で感じる宍戸さんの体温は、いつだって容易く俺を昂らせる。
どれだけ年月を重ねたって、宍戸さんにぶつけたい欲情は熱を帯び続け冷めることはない。宍戸さんの肌に触れるとき、魂にも触れられたらと何度思ったか知れない。きっとそれは空気のように軽くて、水のように柔らかい。力を入れれば簡単に握り潰せてしまうそれを、この世の何よりも尊重してそっと包んであげたい。けれど同時に思うがまま形を変えてしまいたくなるときもあって、そんなときは決まって宍戸さんに縋りたくなった。宍戸さんはそんなどうしようもない俺を何度も腕の中に囲い込んだ。撫でて、見守って、少ない言葉で慰めて、そして決して離さなかった。
「あたってる」
宍戸さんが身じろぎする。押しつけられた宍戸さんの中心は柔らかいままだったのに、対する俺のものは自分でも驚くほど硬くなってしまっていて苦笑いした。
「なんでそんなすぐ勃つの」
「そりゃあ宍戸さん相手じゃねぇ」
「まだキスしただけなのに」
「なんででしょうねぇ」
「はぁ、若いなー。俺はもう、酔うとだめだわ」
「老けたふりしないでくださいよ。ひとつしか違わないでしょうに。まぁ、宍戸さんは勃たなくても気持ちよくなれますし」
「うるせぇよ」
胸を小突かれる。腕の中からすり抜けた宍戸さんは、鼻に皺を寄せて無邪気に笑った。
バスルームから出ていく背中を追いかける。後ろから抱きついても振り払われることはない。くっついたまま行く先々についていく俺をときどき首だけで振り返っては、宍戸さんはそれが自然であるかのようにキスをしてきた。甘やかされている自覚はある。甘えることを許されるのは、自分が宍戸さんにとって特別な存在なんだと言われているようで心が安らぐ。
宍戸さんの準備の仕上げは、昔も今も俺の役割だ。
風呂上がりの宍戸さんは寝室にバスタオル一枚でやってきて、ベッドに乗り上げるやいなや俺の膝に跨がった。
「しようぜ」
宍戸さんはバスタオルを放り投げ、膝立ちで俺を見下ろした。
手のひらにたっぷりとローションを出し、宍戸さんの腰に腕を回してうしろに塗り込める。指の先を力の抜けた窄まりに押し入れれば、長く息を吐いた宍戸さんに頭をゆるく抱えられて体の緊張が伝わってきた。
「宍戸さん、ゆび」
「んっ」
「つらくない?」
宍戸さんがもう一度息を吐く。ローションのぬめりに助けられ、すんなり根元まで入った中指を出し入れさせると、宍戸さんは俺のひたいに口づけた。呼ばれるように顎をあげて、唇に口づける。指を増やすと舌が絡み、宍戸さんは一瞬息を止めた。
宍戸さんの中が俺の指を押し返す。体の正しい反応に抗って宍戸さんを拓いていく。焦ることはない。少しずつ、少しずつ、異物感が快感に変わるまで宍戸さんを愛撫する。吐息と鼓動を耳で聞き、熱くなっていく肌に触れて宍戸さんの性感が高まっていくのを確かめる。宍戸さんの体はいつだって素直で饒舌だ。昔はそれがわからなくて、なんでも言葉で答えを探った。
「気持ちよくなってきたね」
「っ、んっ」
中の膨らみを撫でるたび、宍戸さんは腰をゆらゆらと揺らす。勃ちあがったペニスの先から透明な先走りを滲ませて、俺の指をきゅっと締め付けた。
「もう挿れたい? それともこのまま一回イッちゃいましょうか」
「い、れる」
「じゃあ、もうちょっと柔らかくなるまで触ってあげる」
膨らみをそっと撫でつけながら指を出し入れさせる。粘り気のある水音が響くたび、宍戸さんは腰を揺らして内ももを震わせた。そろそろ膝立ちでいるのもつらくなってくる頃合いだろう。宍戸さんのペニスからとろりと零れた雫が俺の下生えを濡らした。
シーツに横たえた宍戸さんの足を開いて、熟れたアナルにローションを足す。たっぷりと、途中で足りなくならないように多めに塗り込めるのには理由がある。もともとじっくりと胎内を責められるのが好きな宍戸さんは、俺が執拗に動かなくても達する体になった。繋がっているだけで肉体が昂ぶるらしい。自分ではどうにもできないほど快感が体の中を渦巻いて、勝手に何度も達してしまうのだという。そうすると俺のペニスは宍戸さんの中に長い時間挿入しっぱなしになる。だから胎内を痛めてしまわないように、よく潤しておく必要があるのだ。
壮絶とも言える絶頂を繰り返すから、宍戸さんは次の日に予定がある日は挿入を伴うセックスをしたがらない。若い頃ならいざ知らず、さすがに体がつらいようだ。それでも俺とするセックスは好きみたいで、そして俺はいつだって宍戸さんに触れることが大好きなのだ。
「挿れますね。大丈夫?」
「ん、久々だから、あんま奥は」
「わかってます。ちょっとずつ、ゆっくり、ね」
コンドームを被せたペニスにローションを塗り広げ、先端をアナルにあてがう。亀頭で押し広げながら宍戸さんの中に入っていく。熱さと狭さに締め付けられながら腰を進めれば、俺を見つめる宍戸さんの瞳はみるみるうちに蕩けていった。
「あ、あぁ」
「苦しくない? もうイきそう? 我慢しなくていいよ」
「あ……うっ」
シーツを握りしめて喉を晒した宍戸さんが、小さく呻いて達する。これはまだ序章にすぎない。さらに腰を押し進めて中を侵していくと、根元まで入りきるまでに宍戸さんはもう一度体を強ばらせて達した。
「全部入りましたよ。大丈夫?」
「ん、んぅ」
「話すのつらい? 苦しかったら俺のこと叩いていいからね」
「や、じゃ、ない」
「うん、よかった」
「ちょ、たろ」
もつれる舌で俺を呼ぶ。涙の膜が張った瞳に吸い込まれそうになる。
白髪が増えたとか、筋肉の張りが衰えてきたとか、そんなものでこの人は卑しめられたりしない。腕の中に居るときにだけ放たれる色香は年を重ねるにつれて増すばかりで、きっと宍戸さんは魅力的なままで居続けるのだろうと思わずにはいられなくなる。
「どう、した?」
やわやわと腸壁で俺のペニスを食みながら、宍戸さんは腕を広げた。体を倒して抱きつけば、首もとから香る宍戸さんのにおいが俺を恋しさでいっぱいにさせる。
「ちょっと考え事してました」
「俺とセックスしてんのに?」
「ふふ。考えてたのは、宍戸さんのことですよ」
唇を啄んで許しを乞う。胸を合わせて肌を密着させる。宍戸さんの手のひらが俺の背中を撫でたのを合図にゆっくりと律動を始めた。
「あ、あ、あ」
「宍戸さんがね、きれいだなぁ、って」
「ん、っ、あぁっ……あ」
「考えてたんですよ」
「あ、くぅ……っ!」
「うん、我慢しなくていいよ。いっぱい、ね、気持ちよくなりましょうね」
俺に雁字搦めに抱きしめられて、宍戸さんは逃げ場もなく絶頂する。宍戸さんと違って何度も達するわけにはいかない俺はペニスをきつく締め付けられて動けなくなる。その間にも、宍戸さんは飲み込んだペニスの硬さだけでまた昇りつめていった。俺はただ、宍戸さんが過ぎる快感を怖がってしまわないよう、体を抱きしめて安心させてあげるよう徹する。
「っぐ、あ、っ、ひぐっ」
宍戸さんが助けを求めるように俺の背中に爪を立てる。汗ばむひたいに口づけて、焦点の合っていない瞳を見つめる。
「俺はここにいますよ。気持ちいいね」
「お、まえは……?」
「すごくいい。今にもイッちゃいそう。でも、まだだよ。宍戸さんが気持ちよくなってるとこ、もっと見ててあげる」
「もう、っんぐ、むり」
「いや? いやなら終わりにするよ。宍戸さんがつらいことはしませんから」
黒いまつげを濡らして、涙が目尻から流れていく。水膜の張った瞳は、まだ快楽を求めていた。
ゆっくりと腰を引き、宍戸さんの胎内を味わうように挿入する。宍戸さんの体は自然と震え、俺にしがみついたまま背をのけぞらせて快感を甘受する。もう無理、死んじまうと喉の奥から絞り出すような声で口走りながら、幾度絶頂を繰り返しても宍戸さんは俺を離そうとはしなかった。
どれほどの時間が経ったのだろう。せり上がってくる射精感に、とうとう限界を感じた。
「ごめん、宍戸さん、俺、もうだめかも」
だらしなく開いた唇から言葉にならない嬌声を漏らすばかりの宍戸さんは、ひっくり返りそうになる瞳を懸命に動かして俺を見た。不規則に跳ねる体は汗にまみれ、くったりとしたペニスからは精液混じりの先走りがダラダラと溢れるばかり。形を保っているのが不思議なほど蕩けきった宍戸さんは、切羽詰まる俺を見上げて微かに口端を引き上げた。
「っ……! 宍戸さんっ!」
収縮する胎内に食まれ続けた俺のペニスは、宍戸さんほどではないにしろ敏感になっている。このままの状態で穿ち続けることが出来るはずもなく、数度打ち付けただけで欲は弾けた。
迸りが勢いよくこみ上げ、コンドームの中に噴出される。背すじがブルブルと震えて、脳髄まで痺れる心地だ。
ペニスを引き抜いても電撃に貫かれるような快感が長く続く。腰から崩れ落ちそうになる体をどうにか支えて宍戸さんを見下ろせば、切なそうに眉根を寄せてキスをされた。
「おまえのそういう顔、たまらない」
「俺、どんな顔してる?」
汗ばんだ熱い手のひらが俺の頬を包む。荒い呼吸を整えようともせず、宍戸さんは俺を見つめていた。
「俺のこと好き勝手したいのに、未だに出来ないでいる」
「好き勝手だなんて、そんなこと」
「なぁ、長太郎。おまえのことが好きだよ」
「……やだなぁ、そんなに見ないで」
宍戸さんの足が腰に絡んできた。瞳を逸らそうとしても、ときたま快感の余韻に震える手のひらに頬を撫でられて逃れられない。
「壊したいなら壊せばいいのに、おまえの手はどんな時も優しい」
「宍戸さんを壊したいだなんて、そんな恐ろしいこと思ったことない」
どうしてだろう。宍戸さんにすべてを見透かされている気分になるのはこれが初めてではないはずなのに、この瞳に見つめられると内面を暴かれるようで落ち着かなくなってしまう。
「いいんだ。おまえに大事にされてるってのは伝わってるから」
「ねぇ、信じて。本当に思ったことなんて」
「疑ってなんかいねぇよ。別に責めてるわけじゃない。ただ、俺はおまえにならどんなことをされてもいいのに、おまえはずっと優しいから」
宍戸さんの腕が俺を包む。引き寄せられるまま肌を合わせれば、温かい鼓動が俺の胸を打った。
「セックスのあとは、そういうの、全部混ざった顔をしてる」
「……もう、今度からどんな顔をしたらいいのかわからないよ」
「なんで? このままでいろよ」
「つまりさ、無意識下にある俺の独占欲とか抑制しておきたかった衝動なんかが駄々洩れているってことを言いたいんでしょ? いやだよ、一番隠しておきたい相手に見られるのは恥ずかしいじゃない」
「そんな難しい話をしてたわけじゃないんだけどな」
困った顔をして体を起こそうとする宍戸さんに抱きついてシーツに縫い止める。肩口に顔を埋めて表情を見られないようにするのは我ながら幼い行動だが、今は気恥ずかしさの方が勝っていた。
「悪かったって。変なこと言っちまったな」
声をあげて宍戸さんが笑う。俺の汗ばんだ背中をぺちぺちと叩いて、起きあがりたいと意志表示する。その体を動けないようにきつく抱きしめて、宍戸さんを腕の中に閉じ込めた。
「やだ。宍戸さんなんてこのまま俺に捕まっていればいいんだ」
「かわいいことを言うなよ。甘やかしたくなるだろ」
「そんなこと言って、また揶揄うんでしょ」
「拗ねるなって。次は乗っかってやるから」
「もう一回するの?」
「したくない?」
「いいけど、体つらいんじゃない?」
深く絶頂してしまう宍戸さんが二回目をしたがることは少ない。体がイキっぱなしになるのがつらいと聞いたことがあった。
「だって、あんまりおまえがかわいいからさぁ」
楽しそうな声に誘われて顔を上げてしまう。宍戸さんは親指で俺の唇を撫で、あぁ、と呟いて表情を和らげた。
「俺だって、おまえをどうにかしてしまいたくなる」
「してくれていいのに」
「長太郎ならそう言うだろうってわかってても、出来ねぇんだよなぁ。わかるだろ?」
「……なんとなく、宍戸さんが言ってることの意味がわかってきた気がします」
「はは、おまえって俺のこと好きすぎるもんなぁ」
「宍戸さんだって」
「違いない」
「あぁ、そっかわかった。宍戸さんは、俺が宍戸さんにメロメロになってる顔が好きなんでしょ。しかたないじゃない。えっちなことしたあとに取り繕ったりなんか出来ないもん」
体を起こすと、ついてくるように宍戸さんも起きあがる。新しいコンドームをつけなおして寝転がったら、宍戸さんは俺を跨いで腰を落とし、ゆっくりとペニスを飲み込んだ。
「あぁ、はは、やっぱ、だめだな、コレ挿入ってくると、俺」
「いっぱいイッたあとだしね。動けないでしょ」
「ん、っ」
腰を上げ下げしようとしてもうまくいかないようで、宍戸さんは太ももを小刻みに震わせるばかりだった。
「ちょうたろ」
「うん」
甘やかされるのは今度の機会に取っておくことにしよう。自分で快感をコントロールするのもままならない体で俺を気持ちよくしようとしてくれただけで十分だ。動けない宍戸さんの腰を抱えて引き剥がす。アナルからこぼれたローションがいくつも糸を引いた。
横になった宍戸さんを後ろから抱きしめて、ゆるんだ窄まりに挿入する。少し動きにくいけれど、この格好は抱きしめながら宍戸さんの性器や胸の尖りも愛撫出来るのがいい。ゆっくり腰を引いては押し込んで胎内に俺の形を馴染ませるようにペニスで擦り上げると、宍戸さんは枕に顔を埋めて絶え絶えな喘ぎ声を染み込ませた。
「こんなに敏感な体になっちゃって」
「おまえ、の、せいだろ」
「そうだね、俺のせい。俺といっぱいセックスしてきたせい。ねぇ、中でばっかりイくの苦しくない? 前も出るようにしてあげようか?」
先走りが溢れる宍戸さんの亀頭は、うしろと大差ないくらいドロドロになっている。手のひらで包んで、緩やかな抽挿と同じスピードでしごくと、宍戸さんはシーツを強く握りしめて腰を強ばらせた。
「どっちも、やめ」
「気持ちいいのたくさんで、わけわかんなくなっちゃうね」
「わかんない、わかんないから、もう、っ」
「イきそう? ね、お願い、こっち向いて。俺にキスしながらイッて」
腰をカクカク引き攣らせながら、宍戸さんが首だけで俺に振り向く。眉根を寄せて、濡れたまつげが瞬いた。
不自然な体勢で俺に唇を蹂躙され、宍戸さんは腹奥を突かれながら射精した。手のひらに粘つく熱さを吐き出すたびに、宍戸さんの中はきつく俺を締め付ける。構わずこじ開けるように律動を続けると、宍戸さんは立て続けに達し、ついにはペニスと胎内の両方で絶頂した。
口の中を舌で愛撫しても、宍戸さんの舌が絡んでくることはない。溢れる唾液が口端から垂れるまま、宍戸さんは過ぎる快感から助けを求めて喘ぐだけだった。
「あ、がっ、とま、れって」
「うん、うん、ごめんね、もうちょっと、だから、っ、あ」
「あぁぁ、あ、また、ぁぁ」
「キツ……っ! イッ、く、ぅぅ」
「っあ、ああぁ」
「出て、るっ、出てるよ、っ、宍戸さん、宍戸さん、っ!」
宍戸さんの腰に目一杯打ち付ける。俺に抱きしめられて身動きの取れない宍戸さんは、ぶつけられるがままの欲情を受け止めることしかできない。つらいだろうか、苦しいだろうか。しかし腸壁は俺を離すまいと絡みついてくるものだから、なけなしの理性なんてどこかにいってしまって、無我夢中で腰を振り射精した。
しばらく二人で、全力疾走したあとのような呼吸を繰り返していた。ときたま宍戸さんの甘やかな声が混じる。出せば終わる俺とは違い、宍戸さんの絶頂はあとを引く。柔らかくなった俺のペニスが抜け出ても、宍戸さんの体は小さく達し続けた。
しばらくして、ようやく快感の波が引いてくる。宍戸さんは俺の腕の中で寝返りを打った。ぴったりと体を寄せてくる。汗で前髪がはりついたひたいを俺の胸に擦り付けて、気だるげに回した腕で俺の背を抱きしめた。
「どうしました?」
「……わかってんだろ」
「ふふ、はいはい、わかってますよ」
強すぎる快感に苛まれ続けたあとの体は、ひどく人肌恋しくなるらしい。
その体をそっと撫でて、髪を梳いて、宍戸さんが眠りにつくまで体温を分け与える。俺だけに許されたこの行為を、性欲の副産物とは言わせない。丁寧に、心から慈しんで、宍戸さんをいたわる大切な時間なのだから。
「長太郎」
「なぁに?」
「今度は普通のセックスしてやるから」
「なにそれ。普通?」
「ちゃんと、長太郎も気持ちいいように」
「あはは。宍戸さんだけ気持ちよかったと思ってるの? そんなわけないでしょう」
「けどよ、いつも俺ばっかり」
そうなるように、俺がした。何十年もかけて、俺に作り替えられた体はもう元には戻れない。だが逆も然り。俺だって、もう宍戸さんの体でしか満足できないように作り替えられてしまった。
「それでいいんですよ」
そう、これでいい。俺たちのセックスは、俺たちだけのものなのだ。
まだなにか言いたそうにしている宍戸さんのひたいに口づけて、シャワーも浴びないまま布団に潜り込んだ。ややあって、胸のあたりから宍戸さんの寝息が聞こえてくる。
まぶたを閉じれば、脳裡に俺を求める濡れた瞳が浮かんでくる。明日の朝には凛としてしまっているであろうこの瞳にまた見つめられる夜を想いながら、じんわりと包み込むような眠気に身を委ねた。