見つめられて、触れ合う話

見つめられる長太郎の話の続きです。

目は口ほどにものを言う。
宍戸さんの熱視線の理由がわかったら、もう居ても立っても居られなくなった。俺との触れ合いを望んで、それを言葉にする術を知らなくて、無意識に見つめることしか出来なかった宍戸さんはなんていじらしいんだろう。
きつく抱きしめた俺を怪訝な表情で見上げてくる。その手を取って寝室に向かう。背後で戸惑っていた足取りが、ベッドに到着するころには期待を帯び始めているように感じたのは気のせいではないと思うんだ。
「なに。すんの?」
ぶっきらぼうを装う声を静かな寝室に落として、宍戸さんはゆっくりと俺を見上げた。
「したくなっちゃった。だめですか?」
「だめっていうか、突然なんだよ」
「突然かぁ。そうですね、突然かも」
ベッドに腰かけて手を伸ばせば、宍戸さんは慣れたようにベッドに乗り上げて俺の腰に跨った。
「でも、ずっとしたいって思ってたでしょ?」
「? 誰が」
「えーっと、ふふ、俺がですよ」
宍戸さんの腰に手を回して、シャツ越しの鎖骨に頬擦りしながら抱きしめる。誤魔化した俺の頭を撫でて、宍戸さんはふっと笑った。
「なんか、ずいぶん久しぶりな気がする」
「うん、久しぶりです」
「一緒に住んだら、おまえは毎日のようにしたがるもんだと思ってたけど」
「してよかったんですか?」
「馬鹿。忙しくてそれどころじゃなかっただろ」
「忙しくなかったらしてもよかったんだ?」
「ばーか」
ひたいに温かいものを感じて顔を上げると、宍戸さんのキスが今度は唇に降ってきた。あったかくて、柔らかい。触れるだけのキスは、ずっとしていたら眠くなってしまいそうに優しい。
だけど優しさだけでは物足りなくなってしまう俺たちだから、舌を絡めて熱を分け合うようになるまでそんなに時間はかからなかった。
服を脱ぎ散らかしてベッドに潜り込めば、寝転んだ宍戸さんの腕が俺の背中を引き寄せる。ぴったりくっついた胸の鼓動が伝わってきて、宍戸さんの首筋に顔をうずめたら懐かしい匂いがした。
「変なの。毎日一緒に居るのに、こうやって宍戸さんのことぎゅってするのはすごく特別に思える」
「出たよ、おまえの謎ポエム。ただでさえ寒いのに余計に鳥肌立っちまう」
「寒いの? すぐあったかくしてあげますからね」
宍戸さんの胸の尖りを探って、そっとつまんでみる。宍戸さんはぴくりと肩を揺らして、俺を見た。
「あーもう、そういう意味じゃねぇって」
「あはは。ねぇ、宍戸さん。楽しいね」
そう、楽しい。宍戸さんの肌に触れて、宍戸さんの手に触れられるのは、嬉しくて楽しい。
親指で尖りを押しつぶすたびに、宍戸さんは息を詰めた。キスをして、見つめ合って、ときどき気持ちよさに目を細める宍戸さんはそれでも笑ってみせる。
「なんだよ、っ、そんなに見んなよ」
「ここ、気持ちいいでしょ?」
「ん」
「やっぱり俺、宍戸さんが気持ちよくなっていくところ見てるの、好きだなぁ」
胸から脇腹、おなかを通って足の付け根。俺の手が宍戸さんの敏感なところに近づくと、宍戸さんはひとつ深呼吸をする。まるでこれから来る快感を期待してしまう自分を落ち着かせようとしているみたいで、じっと動かずただ俺の手を受け入れているだけなのにとても淫らに見えてくる。
宍戸さんは宍戸さんが思っているよりずっと、俺のことが好きで、気持ちいいことが好きなんだと思う。本人が自分で気付いてくれるのが一番いいんだけど、きっと宍戸さんはこれからも気付くことはないんじゃないかな。俺をセックスに誘えない宍戸さんが、心の底では俺とのセックスを求めている。それがわかっただけで十分な気がした。
宍戸さんですら知らない本心を、俺は気付くことが出来た。なんだろう、この満足感。優越感とも言うのかな。とにかく、今の俺はすごく浮かれている。宍戸さんの瞳が俺を求めている。こんなに幸せなことは他にはない。
「ん……っ」
ゆるく勃ち上がった宍戸さんのペニスを手のひらで包み込む。さするようにしてゆっくり上下させると、みるみるうちに熱く硬くなっていく。唾液をまとってとろとろになった舌に優しく吸いつけば、宍戸さんは俺の髪を混ぜこんで腰を揺らし始めた。
「気持ちいいね、宍戸さん」
目で俺に応えて、宍戸さんはゆっくりと足を広げた。
サイドチェストからローションボトルとコンドームを取って宍戸さんの足の間に戻るまで、宍戸さんの視線が俺の手に降り注いでいるのを感じる。手のひらに取ったローションを宍戸さんのうしろに塗るときも、宍戸さんはじっと俺の手を見ていた。
「指、入れていいですか?」
「ん」
「久しぶりだからちょっとキツいかも」
「大丈夫」
「ほんと? つらかったら言ってくださいね」
「平気だって、っ」
かたいと思っていた宍戸さんのすぼまりは、すんなりとはいかなかったけれど想像していたより短い時間で俺の指を受け入れた。そこからは慣れたもので、ぐずぐずになっていく宍戸さんの中は俺の指を深くまで受け入れて柔く切なく締め付けた。
「本当に平気そう。宍戸さん上手ですね」
上手と言われて一瞬眉をしかめた宍戸さんは、俺になかの膨らみを押されて腰を揺らした。
「っ、わけわかんないこと、言うんじゃねぇ、よ」
「上手ってこと? だってこんなに俺の指に絡みついて、放してくれないのに」
「そんなこと、してねぇ」
「してるよ。宍戸さんのなかに入ったら、俺めちゃくちゃ気持ちよくなっちゃうもん」
指を引き抜いて、コンドームの封を切る。痛いくらいに勃起したものに被せている間、宍戸さんの両足が俺の腰を撫でていた。
「そういうことされるとたまらないんですけど」
「なに」
「足ですりすりしてくるの」
「だって暇なんだもんよ」
「暇って」
被せ終わった俺を両足で引き寄せて、宍戸さんは腕を伸ばした。
先端を宍戸さんの中に埋めて、ゆっくり侵入しながら宍戸さんの腕の中に抱きしめられる瞬間が好きだ。あったかくていい匂いがして、俺の全部を受け入れてくれる、そんな気がするからかもしれない。
「つーかさ、俺のこと上手っていうなら、それはおまえがしてるからだぜ?」
「へ?」
俺を根元まで飲み込んで、深く息を吐いた宍戸さんが言った。腰を動かさなくてもきゅうきゅうと俺を締め付けて放さない。
「はぁ……やっぱ、俺、こうしてんの好きなのかも」
宍戸さんは俺を抱きしめて、噛み締めるように言った。
「えっちなことしてるのが?」
「んー、つーか、長太郎とくっついてんのが」
思わず、腰が動いた。宍戸さんの声が上擦る。もう一度聞きたくなって腰を振ったら、宍戸さんはまた上擦った声で喘いだ。
もう止められない。宍戸さんのなかが気持ちよすぎて、宍戸さんの声に頭がぼぅっとして、宍戸さんの手に触れられたところがとても熱い。俺を見つめる瞳がきらめいて、そしてきつく閉じられる。
その瞬間、いっそう強く俺を締め付けて宍戸さんは果てた。ペニスの先から精液が俺の腹に飛び散る。俺が突くたびに溢れさせる様を見つめながら、宍戸さんを深く穿って果てた。

「宍戸さん、なんかありました?」
セックスのあと、汗ばんだ肌を抱きしめ合いながら聞いてみた。
背を向けていた宍戸さんは、俺の腕の中で寝返りを打って首を傾げた。
「なんかって?」
「いや、その、してるときの宍戸さんがいつもより素直だったなーと思って」
「俺はいつも素直だろ」
「どの口が言うんですか」
いたずらっぽく笑って見せた宍戸さんにキスをされる。
自分よりかっこいいと思っている人に急に可愛らしいことをされると、胸が締め付けられるのは何故だろう。
「そう思ったからな。言っただけ」
宍戸さんは起き上がって頭を掻いた。そして俺をチラッと振り返って、また背を向けた。
もしかして、照れ隠しなのかな。セックスをしたいとは言えないくせに、俺とくっつくのが好きだと言う。それって同じことですよと言いたいけれど、自覚のない宍戸さんに言ってもわかってはもらえないだろうから、これは心の中に仕舞っておくことにする。宍戸さんの気持ちは、俺が知っていればいいのだから。
「俺も宍戸さんとくっつくの大好きですよ」
無自覚な甘えんぼの背中に抱きついて、熱くなっている耳たぶに口づけた。