感度向上特訓

それは宍戸さんの一言から始まった。

「なぁ、これって気持ちいいのか?」
「え?」
「いや、その、尻の中って、なんつーか……」
「な、なんつーか……?」
「気を悪くするなよ? その、気持ちよくねぇっつーか、なんにも感じねぇっつーか」
俺の下で足を開いている宍戸さんは、そのお尻に俺のちんこを咥えたままバツの悪そうな顔で言った。
パンパンに張りつめていた俺のちんこは宍戸さんの言葉にショックを受けて、可哀そうにみるみるうちに萎んでいく。
もうすぐでイケそうだったはずなのに宍戸さんのお尻の中でふにゃふにゃのクタクタだ。
呆然と腰を引けば、俺のふにゃちんは空っぽのコンドームを宍戸さんのお尻に残したままあっさり抜け出てしまった。
その残念な姿が情けなくて涙が出そうになる。
「どうして……言ってくれなかったんですか?」
涙声になるのを抑えられず動揺する俺の頭を、宍戸さんは申し訳なさそうに撫でて体を起こした。
宍戸さんが、お尻の穴に引っかかったままのコンドームを引っ張り出してごみ箱に放る。
罪滅ぼしなのか、俺が可愛そうになったのか、唇にたくさんキスをしてきた。
「言えるわけねぇだろ。おまえは気持ちよさそうに腰振ってんのに」
飾り気のない言葉が手負いの俺を襲い、堪えきれなくなった涙がぶわっと溢れる。
宍戸さんの言う通り、俺は毎回気持ちよかった。
宍戸さんのお尻に突っ込んだ瞬間から気持ちよくて、腰を振れば振っただけもっと気持ちよくなって、イッちゃうときも目玉がひっくり返りそうになるくらい気持ちがよかった。
けれどその一方で、初めてセックスをしてからのこの一か月間、宍戸さんは一度も俺に突っ込まれて気持ちいいと感じてはいなかった。
「お、俺、宍戸さんに無理強いしてたんじゃ」
「そんなことねぇよ! おまえとセックスするのは好きだぜ? ただ、ケツに入れられても全然気持ちいとは思えねぇってだけで」
「それが一番だめじゃないですかぁ」
「あれ? そっか? わりぃ、泣くなよ。な? 続きするか? せっかく慣らしてきたんだからよ。まだちんこ入れたいだろ?」
「……」
「ほ、ほら、俺が勃たせてやるからよ」
宍戸さんは俺のちんこに顔を近づけて、先っぽをぱくっと咥えた。
あったかい口の中で舌に撫でられる。
けれど俺のちんこはふにゃふにゃのまま、宍戸さんの口からぽろりと零れた。
「長太郎、おまえ……」
「っぐ、ひくっ、ししどさ、おれのちんこ、ばかになっちゃった」
「俺が感じないのがそんなにショックだったってのかよ」
「だって、だってぇ~」
「まずいな。このままじゃ長太郎がインポになっちまう」
「イ、インポ?! そんなのいやです! どうしよう……うぇぇ~~」
「泣くなって! ようはアレだろ、男の自信を取り戻したらいいんだろ!?」
「男の、自信?」
「俺が長太郎のちんこでもイケるようになれば、おまえは自信をもって勃起できるようになれるんじゃねぇか!?」
真っ裸の宍戸さんはお尻をローションで濡らしたまま俺に力説した。

結論から言うと、俺はインポじゃなかった。
次の日、俺のちんこはしっかりと朝勃ちしていた。
朝練のあとそのことを報告したら、宍戸さんはちょっと考えてからこう言った。
「長太郎がインポじゃなかったのはよかったけどよ、これからセックスするたびにちんこが勃たなくなる可能性は捨てきれねぇよな?」
確かに、言われてみればその通りかもしれない。
宍戸さんとセックスしなくなる未来なんて考えられないから、きっと近いうちにまたしたくなってしまうだろう。
でもいざ宍戸さんのお尻に挿入した瞬間、何も感じない宍戸さんと気持ちよすぎてたまらない俺との間にある性的快感の温度差を思い出して、またまたふにゃちんになってしまう予感がした。
「だからよ、俺が尻でもイケるようになればいいんじゃねぇか?」
「宍戸さんがお尻で?」
「そうすればおまえは気兼ねなく気持ちよくなれるし、俺ももちろん気持ちよくなれる。一石二鳥だと思うんだ」
「でもどうやって?」
「それがよ、昨日帰ってから調べてみたら、男には尻の中にちゃんと性感帯があるらしいんだ」
「性感帯、ですか?」
「前立腺って言うらしい。そこをうまく刺激してやると勝手にザーメン飛び出すんだってよ」
「うそだぁ。そんな水鉄砲みたいにうまくいかないですよ」
「本当だって! おまえも調べてみろよ!」
宍戸さんに言われた通り授業中にこっそりスマホで調べてみたら、確かに前立腺というものが男性の腸内には備わっていて、上手に刺激すると精液を放出するらしい。
しかも、とても気持ちいいらしい。
ということは、だ。
宍戸さんのお尻のなかにある前立腺を探し出して、かつ俺のテクニックが上達すれば、セックスしながら宍戸さんと一緒に気持ちよくなることも不可能じゃなくなるということだ。

「特訓しましょう!」
部活が終わり、二人きりになったシャワー室で宍戸さんに提案した。
「特訓? なんの?」
「前立腺の特訓です」
「ほほぅ。考えたな長太郎」
個別に仕切られている隣のシャワールームに忍び込むと、裸の宍戸さんはシャワーを止めて俺にお尻を向けた。
以心伝心。宍戸さんには俺のしようとしていることがお見通しのようだ。
少し足を開いた宍戸さんが壁のタイルに両手をつく。
俺はシャワールームの床に膝をついて、宍戸さんの尻たぶを左右に割り開き見えた肛門を舌で舐めた。
「んっ」
「お尻の穴は感じるんですか?」
「くすぐったいのと、あと、ちょっと気持ちいい」
宍戸さんが気持ちいいって言うだけで勃ちそうになる。
嬉しくてベロベロ舐める俺の舌に反応して、宍戸さんは声を噛み殺した。
力が抜けてきたところで、涎で濡らした指を差し込んでみる。
昨日と同じように宍戸さんのお尻の中は熱かった。
「ふくらみっぽいものがあるらしいんですけど」
「おまえ指長いし、見つけられんじゃねぇか?」
「うーん、どこもつるつるしてよくわからないです」
「頑張ってくれよ。この特訓はおまえにかかってんだ」
しっかりした宍戸さんの口調から、本当にお尻の中でなにも感じていないことがわかって落ち込みそうになる。
「そんなこと言われても~。宍戸さんも協力してくださいよ」
「協力ったって何すりゃいいんだよ。尻ん中いじられる以外に俺が出来ることがあんなら教えてくれよ。俺だって気持ちよくなりてぇんだよ」
「宍戸さん、気持ちよくなりたいんですか?」
「はぁ~~~? おまえ何言ってんの? 当たり前だろ。長太郎とセックスして気持ちよくなってみてぇに決まってる」
急に指を引き抜いたせいで、宍戸さんは「うひゃっ」と素っ頓狂な声をだした。
俺を叱ろうと振り向いた宍戸さんを抱きしめる。
冷えてしまった宍戸さんの肌を温めたくて、ぎゅっと腕に力をこめた。
「宍戸さんもそう思ってくれてるなんて、俺、すごく嬉しいです」
宍戸さんはまた「はぁ~~~?」と呆れながらも、俺のことを抱きしめ返してくれた。
「俺がなんでおまえに突っ込ませてるかわかるか? おまえが好きだからだよ。なのにこのままでいいなんて思うわけねぇじゃん」
「宍戸さん……!」
裸のまま抱き合いながらこんなことを言われて勃起してしまったのは不可抗力だ。
インポじゃなくてよかったなと言う宍戸さんに握られて、俺も宍戸さんのちんこを握って、抜き合いっこをして今日の特訓は終わった。
帰り際、明日からはローションを持ってくることを約束した。
それから俺たち毎日特訓を行ったのだ。

「んあっ!」
特訓をはじめて十日後。
宍戸さんに変化が訪れた。
俺の指先がようやく見つけたふくらみを押し込んだ瞬間、宍戸さんの腰がビクッと揺れた。
「ここ?! もしかして、ここですか?!」
「あ、あぁ、そこ、そこだ! 長太郎! もう一回押してみろ!」
「わかりました! えいっ!」
「あぁっ!」
もう一度宍戸さんの腰が揺れ、お尻の穴がきゅっと狭まった。
「やった……! やりましたよ宍戸さん! 見つけました! 宍戸さんの前立腺!」
「すげぇ、ほんとにあったんだ……やったな長太郎!」
喜びのハイタッチの代わりにふくらみを強く押したら、宍戸さんはお尻をきつく締めて「あんっ」と喘いだ。
「気持ちいいですか? ここ、ちゃんと気持ちいいですか?」
「あぁ、イイぜ。証拠にほら、勃起してる」
宍戸さんの前を覗き込むと、いつもはお尻を弄られてもだらんと垂れさがっていただけのちんこが勃ち上がり、行儀よく気を付けの姿勢をしていた。
「本当だ! すごい、なんか感動しちゃいます」
「俺も。男も尻の中で感じるって都市伝説じゃなかったんだな」
「ってことはですよ、ここをもっと刺激したら、宍戸さんのちんこから精子出ちゃうんじゃないですか?」
「まじかよ……! おい! やってみようぜ!」
意気揚々と前立腺を押し込んでみたが、なかなか宍戸さんは射精しない。
でも間違いなく気持ちよさそうだ。
ふくらみを押したり擦ったりするたびに宍戸さんは腰を揺らして喘いでいた。
「はぁっ、はぁっ、長太郎、焦らすのはやめろって」
「焦らしてないですよっ。おかしいなぁ、もうちょっとだと思うんだけど……」
「イキたいのにイケねぇの、つらい」
「そ、そうですよね、えっと、どうしよう」
「うぅ~~」
もぞもぞと腰を揺らす宍戸さんは本当につらそうに見える。
勃起しっぱなしで先っぽから透明な汁がダラダラ零れているのに、肝心の精液が出ないので生殺しの状態だ。
「そうだ、ちょっと失礼しますよ」
宍戸さんのお尻に指を入れたまま前に手を回した。
硬くて熱いものを握って、上下に扱く。
すると宍戸さんはほっとしたように息を吐いた。
「あ、あぁ、それ、なかもちんこも、きもちい」
「よかった。このまま出しちゃっていいですからね」
「ん、んぅ、っ、やっべ、あぁ……出る、っ」
勢いよく放たれた宍戸さんの精液が壁のタイルに貼り付いた。
二度三度、今まで見た宍戸さんの射精の中でも一番多く精液が吐き出されていく。
宍戸さんが射精するたびに、お尻のなかの俺の指は強い力で締め付けられた。
こんなの、ちんこを入れたままされたら、俺、どうなっちゃうんだろう。

その週末、俺たちは宍戸さんの部屋にいた。
前立腺で気持ちよくなることを覚えた宍戸さんに試合を挑まれたからだ。
「いいか、これは俺とおまえの真剣勝負だ」
「はい!」
「俺はまだ尻の中だけでイッたことがない。つーか、おまえにちんこを扱いてもらわないとイケない」
「はい、その通りです!」
「だから今日、おまえのちんこでイけるかどうか、俺とおまえのサシの勝負だ」
「はい!……勝ち負けってどうやって決まるんですか?」
「う~ん、俺が尻でイケたら俺とおまえは勝ちってことだ。イケなかったら二人とも負け」
「つまり二人で勝利を掴みとるわけですね!」
「そうだ。わかってんじゃねぇか長太郎!」
いそいそと服を脱ぎ、たくさんキスをして、いつもしていたように宍戸さんのお尻に指を入れた。
今日は指だけじゃなく俺のちんこも入れるからローションは多めだ。
大きく開いた足を自分で掴んでいる宍戸さんは、俺が前立腺を撫でるたびに唇を噛んで息を漏らした。
「そろそろいいですか?」
「ん、長太郎、来い」
コンドームをかぶせて、宍戸さんのなかに挿入する。
久しぶりの感触だ。
あったかくて狭い宍戸さんのおなかの中は、やっぱりどうやっても気持ちいい。
「ちゃんと、長太郎のちんこ、あててくれよ?」
「大丈夫です。任せてください!」
前立腺を刺激されて気持ちよくなっている宍戸さんは、ほっぺたをピンクにして微笑んだ。
宍戸さんの足を抱えて腰を動かす。
揺するような動きから、だんだん宍戸さんの前立腺をめがけた動きにシフトしていく。
何度目かのチャレンジで、俺の先っぽが覚えのあるふくらみを擦った。
「あぁっっ!」
宍戸さんの腰が跳ねた。
抜けてしまいそうになるのを、宍戸さんの腰を掴んで固定する。
何度も何度もふくらみをめがけて突き上げると、宍戸さんは逃げるように腰を跳ねさせた。
「宍戸さん、ちょっと、逃げないでください」
「あっ、だって、んぅ、これ、おかしい」
「なにが、おかしいん、です?」
「ちょたろのちんこ、すげぇ、きもちいぃっ」
グンッとちんこに血が集まるのがわかった。
更に大きくなったものにつつかれているのがわかるのか、宍戸さんは驚いた目をして俺を見上げている。
「うれし、うれしいです、宍戸さん! もっと、いっぱい、してあげますから!」
「やぁっ! おっきぃ、あっ、むり、もう、むりぃ」
「なにが? なにが無理なんです? 出そうってこと? ねぇ、宍戸さん、教えて? せーし、出そうなの?」
「ん、うんっ、で、でそう、でるから、もう、でる、からぁ」
俺の腰に絡めた両足に力がこめられた瞬間、宍戸さんの先っぽから精液が飛び出した。
同時に宍戸さんのお尻の中の俺のちんこは信じられないくらいに締め付けられる。
本能か欲情か、俺の腰は勝手に速度を速め、狭い宍戸さんのなかを行き来した。
気持ちいい。気持ちいい!
もう、わけがわからない。
脳みそも心臓もなにもかも全部いっしょくたになってしまったみたいだ。
「ちょ、うごくなぁっ! いま、おれ、イッてる、っ!」
「わかってます! わかってるんですけど! 俺も、俺も、もうだめっ!」
ひときわ強く宍戸さんの中に叩きつけて、俺は射精した。
今までしたどんなオナニーより、擦り合いっこより、セックスもどきより、最高に気持ちがよくて死んじゃうかと思った。

「長太郎のちんこ、やばい」
全力疾走したあとみたいにゼーハー言いながら抱きしめ合って、ようやく息が整ってきたころ、宍戸さんが俺の耳元で呟いた。
「宍戸さんのお尻もやばいですよ」
もう指一つ動かせる気がしない。
全身全霊でしたセックスは、俺たちの気力も体力も奪っていった。
まるでフルセットを制したときみたいな疲労感と達成感。
そう、俺たちは勝ったのだ。
「すげぇな。セックスってちゃんと気持ちいいんだ」
「そうですよ、気持ちいいですよ。でも、こんなに気持ちいいセックスは初めてです」
「俺と気持ちよくなれたから?」
「はい」
「そうか。よかった」
「宍戸さんは? 宍戸さんも俺と気持ちよくなれてよかった?」
なけなしの力を振り絞って顔をあげたら、宍戸さんは一等嬉しそうな顔をして俺にキスをしてくれた。