かわいい、と宍戸さんは言った。
ぷっくり朱く、トロトロになった恥ずかしいところで俺を飲み込んで、焦点が合っているのかいないのかわからないまなざしで、かわいい、と言った。
乗っかられた俺は宍戸さんを見上げていることしか出来なくて、宍戸さんの中で柔く締め付けられるたびに、切ない疼きが下腹に溜まる。
「あっ」
宍戸さんが腰をゆすった拍子に声が出てしまった。俺の反応を楽しそうに見下ろして、宍戸さんは三日月のように目を細めて笑んだ。
気をよくした宍戸さんは、俺の先っぽが抜けそうになるギリギリのところまで腰を引き上げた。
そのまま俺に見せつけるようにして、浅く腰を上下させる。
張りつめた亀頭が宍戸さんにチュパチュパしゃぶられてるみたい。カリ首が何度も宍戸さんの入り口に引っ掛けられて、そのたびに腰が跳ねそうになる。
「や、ぁ」
耳を犯すのは宍戸さんの吐息と俺の声。
文字通り、俺は宍戸さんに食べられてしまっていた。
近頃、宍戸さんはしょっちゅう俺を食べたがる。
いつも通りにセックスをして、お互いに蕩けて、もうおなかいっぱい、となったところで俺に跨る。
精液のたまったコンドームを外して、まとわりついた白濁ごと扱いて硬くした俺の性器を、そのままぱっくりおなかの中に飲み込んでしまう。
同じ男だから何度も達したあとの敏感さをわかっているはずなのに、宍戸さんはわざと知らないふりして腰を振った。
薄い皮膜を隔てずに直接感じる宍戸さんの胎内は、熱くて、柔らかくて、ぴったり張り付いて、腰砕けになりそうなくらい気持ちがいい。
だけど繋がったまま射精することは許してくれなくて、俺はギリギリのところでひたすら耐えなければならなかった。
言いつけを守って頑張っているのに、宍戸さんは口端をうっすら引き上げて、かわいい、と言う。
そのうち、快感は拷問になって逃げだしたくなってくる。許しなんか請わないで、欲望のまま宍戸さんの中を汚してしまいたい。
でも、そんな俺を見下ろして、それはそれは嬉しそうにかわいいと言うから、そうか俺はかわいくいないといけないのかって催眠術にかけられたような心地になって、宍戸さんが満足するまで歯を食いしばって我慢することが少しずつ苦痛ではなくなっていくのだ。
先っぽを弄んでいた宍戸さんは、ふぅと少し長く息を吐いてゆっくり腰を落とした。
俺を全部飲み込んで、きゅーっとおなかの中を締め上げる。
「う、あぁっ」
まっすぐ伸ばしている両足がぶるぶる震えた。
シーツを掴んで快感を逃がそうとしたけど、そんな気休めでどうにかなる気持ちよさじゃない。
宍戸さんは笑みをたたえたまま腰を上下させた。
「やっ、あ、そん、なぁ」
腸壁全部で俺を扱き上げるような執拗さで、じっくり舐るように律動する。
結合部に体ごと全部を支配されているみたいだ。
「あ、ぁ、ししど、さん、やだぁ、」
「いや?」
「っ、っん、んぐ、や、じゃ、……ないで、すぅ」
「ん、いいこ」
宍戸さんが俺に与える錯覚は毒薬のようなもので、一度知ったら抗い方を忘れてしまう。
耐え続けることしか俺には出来なくて、腹筋が引き攣ってつらいのに宍戸さんは助けてはくれなかった。
「ししどさ、おれ、んっ、もう、むりぃ」
「もうだめ?」
「だめ、だめっ、あぁ、やだ、ししどさん、」
「あは、かわい」
「んぐ、うえぇ」
「泣くほど、っ、きもちい?」
「きもちぃい、ねぇ、だめ、っ、おねが、も、抜いて」
射精したい欲求で頭がおかしくなりそう。それなのに、よく躾けられた俺には力づくで宍戸さんを突き放すなんて選択肢は浮かばない。
宍戸さん自身が俺を解放してくれるまでは天国のような地獄が続く。涙でぼやけた視界の先で腰を振りながら恍惚と微笑む顔を見つめていた。
「っ、はぁっ、長太郎、いいよ」
宍戸さんの息が上がり始めた頃、ようやく永遠にも感じられた苦しみから解放される。
腰を引き上げた宍戸さんの中から勢いよく飛び出た俺の性器は真っ赤に充血していた。
刹那、外気の冷たさを感じる間もなく、弾け飛ぶ精液。それは一滴も宍戸さんに辿り着くことはなく、俺の腹と胸を情欲だらけの白濁で汚した。
「ああ、すごい」
宍戸さんが口の中で呟く。
過ぎた快感がにぶらせた五感でも、宍戸さんの発情だけは肌で感じ取れた。
俺の胸を跨いで、宍戸さんは自分の性器を扱いた。
目と鼻の先で、尿道口が開く。
「っ、んっ」
まぶたを閉じるとほぼ同時に、宍戸さんは俺の顔に白濁を散らした。
熱い迸りが肌を伝う。
精液がかからなかった片目をうっすら開いてみると、荒く息を吐く宍戸さんと目が合った。
「長太郎、おまえ、すげぇかわいい」
そして宍戸さんは瞳を輝かせて、自分の精液ごと俺の唇をべろっと舐めた。
「ちゃんと我慢できたな。いいこ」
俺の頭を撫でながら、涙と白濁を舐めて誉めちぎる。
あんなに苦しかったはずなのに、今の俺はこの世の誰よりも幸せ者である気がして、宍戸さんのためならなんでも出来ると思った。
「宍戸さん、嬉しい、ですか?」
俺のひたいに口づけていた宍戸さんが動きを止めた。
そしてゆっくり体を起こして俺を見下ろし、瞳の奥を燃やしたまま微笑んだ。