朝のあれこれ

背中にぴたりとくっついて眠っていたはずの長太郎に首筋を甘噛みされる。鳩尾を撫でる温かな手のひら。その指先は俺の鼓動を確かめるようにゆっくりと左胸を這い、尖りを擦り始める。ゆうべ散々弄ばれたせいで、些細な刺激ですら俺を夢のふちから呼び起こすには十分だった。
「ん」
指の腹で尖りの先をさすられながら首の薄い皮膚に歯が食い込んでいくのを、どこか他人事のように享受すれば、眠気と性感の混じった声が自然と喉の奥から漏れた。
「くふ、ん…」
耳にかかる吐息が熱い。ぞくぞくとうなじをせり上がってくる快感は身に覚えがありすぎて、俺はひとつ、息を吐いた。
胸をまさぐっていた手のひらが体の表面を下っていく。みぞおち、腹筋、繁みをまんべんなく撫でて、緩く勃ち上がった性器に触れた。半身を起こした長太郎がのぞきこんで「硬くなってる」と耳元で呟いた。寝起きなんだ、仕方がないだろう。おまえだってさっきから俺の尻あたりに熱いものを押し付けてきているくせに。
「すんの?」
「だめですか?」
「いいけど、ねみぃ」
「ちょっとだけ」
入れたくなっちゃったんです、と言い終わらないうちに長太郎の指が後ろに侵入してくる。そこはまだ柔らかいままで、眠りに就く前に掻き出しきれなかった潤滑油に助けられ易々と受け入れてしまった。腹のなかがゆうべの行為を思い出して反射的に疼きそうになる。抜き差しを繰り返されれば気持ちよさから背が丸まり、さらけ出してしまった背骨に湿った舌が這った。俺をなだめるように何度も舐め上げながら指を抜いた長太郎は、次いで宛がった亀頭をゆっくりと埋め込んできて、その熱さに身震いする。
「あ、あぁ」
体の中が自分とは違う別の体温で満たされる感覚をどう言い表したら良いだろう。じわじわと、感情までも浸食されていくようなこの感覚。
「全部、入れていいですか?」
「ん…」
長太郎はゆっくり時間をかけて俺のなかに入ってきた。根元まで咥え込めば柔らかな陰毛が肌をくすぐる。
「はぁ…あったかくて、きつくて、気持ちいいです」
「いちいち、言わなくて、いい、って」
熱っぽいため息が零れる。
長太郎は後ろから俺を抱きしめると背中にひたいを押し付けて、ときどき肌に唇を触れさせては音を鳴らして吸い付いた。しばらくそうして満足したのか、挿入したときと同じくらいの時間をかけて腰を引き始めた。
「うあ、ぁっ」
やんわりとした愛撫の中ふたたび眠りに落ちそうだった俺は、前触れもなくはじめられた律動に声を抑えるのを忘れた。指とは違う熱い塊が腸壁を擦るたびに、俺の体は否応なく反応してしまう。そうなるように、俺の中はもう長太郎に馴染んでしまっているのだ。
「前も、濡れてる」
亀頭を包み込んだ長太郎の手のひらが、先走りを塗り広げるように撫でた。ただでさえ敏感な部分を性的な意図をもって触れられて、強制的に眠気から覚醒させられる。
「やめ、どっちもしたら、すぐ」
「すぐ、なんですか?」
親指で尿道口を押し開けるように擦られる。反射的に腰を引けば挿入が深くなって、どう足掻いても快感から逃げられない。前と後ろから責め立てられる焦燥に腰が跳ねるのを抑えられなくなって、俺は抗うのをやめた。
「も…出る、から」
深く腰を押し付けられるのと同時に鈴口に爪を立てられ、たまらず精を吐き出した。尿道を精液が通るたびに、ぐぐっと丸まった体がビクビク震える。全力疾走したあとのように荒い息を吐き、長太郎の手の中に全部を出し切ったころにはすっかり目は覚めていた。
「はぁ…疲れた」
「おはようございます」
「おはようじゃねぇ。なんつー目覚ましだよ」
陰茎を抜いた長太郎は体を伸ばして枕元のティッシュを引き寄せると、俺の亀頭とその手のひらについた精液を拭った。その間も俺の尻には硬いままの怒張が擦りつけられている。
「おまえどーすんだよ、それ」
「これですかぁ?」
甘えを含んだ間延びした返事。その意図に気付かない俺ではない。
覆いかぶさってきた長太郎にされるがまま足を開いた俺は、はぁ、とわざとらしくため息をついて見せた。
「しょうがねぇなぁ」
枕元に投げっぱなしだった昨日の残りのコンドームに手を伸ばす。個包装を歯でちぎって渡してやれば、見上げた瞳は嬉しそうに細められた。